先回blog「コンピュータに宿る非線形性2・・・」ではblenderのシェーダの非線形性により映像を作製しました。スケールと細かさのパラメータを変えることで、相転移のように見える映像が作製できることを述べました。今回はこの映像をTouchdesignerで加工した映像で相転移を示します。自然を表す映像を作製するのが目的です。そして以前のblogで扱った「量と質の変換」を再度考察致します。
非線形現象の加工
先回のblogは2025.05.23 「コンピュータに宿る非線形性1・・・」の続編に対応しておりました。このblogの活用例が2025.05.24の「非線形現象の加工・・・」でした。今回のこのblogは、「非線形現象の加工・・・」に対応する内容です。blenderの非線形性によって作製した映像を加工した例となっています。部屋に植物を置いたりするのは、自然を感じたい表れです。本物の植物の代用品として、なんとなく自然を感じさせる装置の需要が少ないながらあるようです。とりあえずはそうしたアプリケーションを想定しています。blender内でも加工していくことはできますが、Touchdesignerのほうが慣れているので、blenderで作製した先回の映像を、Touchdesignerのmovefile TOPに渡し、pbr(Physically Based Rendering)を使って作製しました。pbrはMonogokoroのblogでは頻繁に登場しているシェーダーの技術です。先回は3つの映像がありました、これに対応する映像を次に示します。
全体的には、日常的には見たことが無い映像でありますが、砂漠や海を思い起す映像になっていると思います。もともと自然は非線形性にあふれているので、非線形性を使って作製した映像が自然ぽいということがベースにあると思います。その上で自然を思い起すようにカメラアングルや、凸凹をなまらせるblurのパラメータ値や、凸凹の高さ調整をするheight mapのパラメータ値を、アニメーション映像に合わせて変化するようにしました。
最初の映像は海か砂漠がわからない感じではじまりますが、すぐに砂漠の映像を思い起こすと思います。最初は他の2つの映像に比べて、比較的穏やかな凸凹がある映像で次第に凸凹が少なくなめらかになっていきます。元の映像はblenderのシェーダの中のノイズテクスチャーのスケールをパラメータとして変更した映像でした。この元の映像変化が他の2つの映像程激しい凸凹になっていないことを反映しています。この効果により海より砂漠を感じると思います。スケールを変えるパラメータの場合、通常なら徐々に拡大されるだけですが、サイズだけでなく、なめらかさの状態も変化していくのが非線形性の表れでした。
2番目の映像は、非常に荒れた海がおだやかになって行きます。時化と凪の状態変化を表した映像となっています。元の画像は最初の画像より細かさのパラメータが大きいのが特徴でした。このため、凸凹が激しいわけですが、スケールのパラメータが小さくなると(映像は拡大されていきます)、凸凹が抑えらえていきます。しかし細かさのパラメータが最初の映像より大きいため、凸凹が抑えられなめらかになっても砂漠のようには思えません。
3番目の映像は、最初は氷の大地のような映像ですが、直ぐに海の映像となり、後半は砂漠の映像へと変化していきます。この元映像はスケールのパラメータを次第に小さくしていくと同時に、細かさのパラメータも次第に小さくしていく映像にしたからです。これにより、ざわついた時化からなめらかな凪に、明確に「映像の相転移」が見て取れます。
もう一つ映像を加えています。これの元映像は、ノイズテクスチャのオフセットの値を0.2から0に変化させた場合で、島と島との間に道ができそれが次第になくなっていく映像です。はじめのほうで、白い帯がうねうねと動くのが島と島との間にできる道を反映しています。この映像では、氷の大地が流されて海に転移していく印象を受けます。
これらの映像で分かったことは、凸凹の度合いとなめらかさの違い、すなわち空間周波数となめらかさが、氷の大地、海、砂漠の印象を与えるための重要な要素であったということです。そしてこれらの変化を活用することで、3つ目の映像の様に「映像の相転移」を作ることができました。
量と質の変換
2025.05.19のblog「 「量と質の変換1」 ・・・」では、設定できる量を人は質に変えて感覚として捉えることを述べました。そして、植物の数が変わることで、植物が動物の皮膚のように見えることを映像で示しました。また2025.07.08のblog「「環世界」と「暗黙知の次元1」」では、視覚の分解能が低い生物がいたらという想定で、次第に分解能が高くなる映像を示しました。映像ではある分解能の時から突然形状が何か分かるようになりました。今回の手法は空間周波数となめらかさを同時に変えておりますが、同様に量から質の変換が生じています。スケールや、細かさ、オフセットのパラメータの値は量です。これにより、細かい凸凹した感じは、荒れた海や氷の大地のイメージとなり、中程度の凸凹さと大きさは、海のイメージにつながり、広いなめらかな状態は、砂漠のイメージとなりました。勿論人によって連想するイメージに違いがあるでしょう。
相転移の現象は、今回の場合も、植物の数で動物の皮膚のように見えるようになった場合も、視覚の分解能の場合も、質的に変化するのはある程度幅がありますが境があるようです。非線形性は今回はオブジェクト側に入っていますが、人の感覚が量に対して非線形である可能性は十分に考えることができます。「量と質の変換・・・」で、植物の数によって植物から動物の皮膚に見えるように転移したのは、人側の非線形性だと推察しています。「映像の転移の現象」は人が何に反応しているのかを知る手がかりを与えてくれるように思いました。


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