非線形現象の加工、モノとのコミュニケーション

非線形

先回のブログで非線形性を利用すると思いもよらない形状が現れることを述べました。それがそのまま気にいることもありますが、「何だこれは」で終わる場合もそれ以上に多くあります。非線形性でできるそのものをコントロールすることは難しいのです。そこで、その形からインスピレーションを受けて、こうすればいいのでは、こんな風に見えるのではないか、などと空想し、非線形性の形状を利用して、意図がある程度伝わるように変形していく場合が多いです。それを見た他の人も何かを感じる、そういう風に仕上げていきたいものです。この作製するプロセスそのものが、人とモノとのフィードバックであり、人とモノとのコミュニケーションであり、目指している姿です。現状こうしたプロセスを装置化することは程遠く、行うその人だけが体験する状態にとどまっていますが、そうした装置が開発されるといいと思っています。それでは先回のブログの非線形性の形状をどのように変えていったか、そしてどんなナラティブを空想したかを述べて行きます。非線形現象の加工の一例ですが、モノとのコミュニケーションの例でもあると思います。

先回のブログの表紙の絵が現れた時、これは古代都市だな、と思いました。塔と城壁がある都市です。偶然ですがそのころ、画家の平山郁夫の美術展が開催されており、それを見に行きました。彼は砂漠の絵を沢山描いておられます。砂漠と都市とラクダが描いてある絵が有名です。おそらくこのイメージと重なったのでしょう。砂漠の古代都市が思い浮かびました。blenderで作製した絵を最初に見ていただきましょう。

砂漠の中に、古代都市の跡が残っている絵で、ラクダも描いておきました。私は砂漠というと、星の王子様、SF作家稲垣足穂の黄漠奇聞を思い出します。こうした絵や物語が私のナラティブを作っていると思います。この絵を見ると多くの方は砂漠を描いていることは分かるとおもいます。その中に人工的な塔があることも気づくでしょう。後は見る方の想像次第でしょう。非線形性の絵から具体的な何かがわかるような絵に変換できていると言えるでしょう。

元になった非線形の絵は先回のブログで述べた絵で、blenderのシェーディングエディターで作りました。その絵はアリルタイムに、ライトによる影響、陰影、反射、等を計算しています。ですので複雑な絵になると、少し角度を動かしただけでも、再び絵を表示するのに時間がかかります。CPUやGPUへの負荷が高いのです。そこでこれを回避する方法があります。これがベイクという方法です。これはシェーディングエディターで書いた立体的な絵を平面の絵に変える技術です。そして対象にその絵をはって元の絵に戻します。このベイクには多くの種類があります。シェーダで描いた絵の色を反映させるデフューズ、つや感を反映させるラフネス、凸凹を反映させるノーマル、陰を反映させるアンビエントオクルージョン、発光を反映させるエミット等です。もしシェーディングと同じ映像を作りたいなら、これらを全てを貼るとできます。ベイクした後の絵のことをマップと呼びます。デフューズマップ、ノーマルマップと言うようにです。通常は全部つかわなくても、ディフーズマップとラフネスマップとノーマルマップで非常によく似た状態になります。これで作製すると回転や移動させても軽やかに動きます。今回はシェーディングの状態と同じものを作りたいわけではないでの、多くのマップ適用したりしません。私が行おうとしたのは、もう少しなだらかにして複雑さを低減しようと思ったのです。そこで、ディフーズマップとラフネスマップとノーマルマップを作っておいて、こんどは、それぞれのマップを使ってディスプレイスモディファイアというのを適用しました。これはマップを基にしてその色情報から凸凹を作る技術です。そしてこの時、図形のメッシュの形状も凸凹になります。先のブログで行ったディスプレイスメントはテクスチャーを基にして色情報で凸凹をつくりそして、メッシュの変更をせずに見た目が立体になるように見せる技術でした。今回のモディファイアーのディスプレイスメントとは絵から凸凹を作りメッシュを変形します。まとめると、シェーダでディスプレイスメントして作った映像をベイクして写真をつくり、その写真を基にディスプレイスメントモディファイアをかけたということです。どのマップを選択するかで絵は全然違うのですが、これがいいのではないかと思ったのがノーマルマップでした。このノーマルマップの絵を次に示します。

このノーマルマップで上のほうをよく見ると白く丸い部分がありますが、これはノーマルマップの上に私が色を付け足した白です。ディスプレイスメントでは色が高さに変換されるので、この部分を白で塗ったのが、砂漠の古代都市の絵では塔に変換されています。このようにベイクした後の絵に色を塗ってさらに凸凹をつけることもできます。このようにして砂漠の古代都市の絵を作製しました。

この砂漠の古代都の絵を見ていると、別のインスピレーションがわきました。私は趣味として曲を作っておりますが(https://nana-music.com/users/7558110) 、最初のブログのほうで述べたようにConwayという人工生命を曲作製に利用しています。このため人工生命Conwayはよく見ております。そこで砂漠の古代都市からさらに何百年後、Conwayを基にした宇宙生命体が侵略してきたというのはどうだろうか、と思いました。そして描いたのが次の絵です。

表面の少しだけ凸凹した黄色の奇妙な形状がConwayによって作製した文様です。Conwayもまた非線形ですので、文様は一様ではありません。未知の生物に侵略されていると見えるかどうかは見る方しだいですが、砂漠の図とは随分と印象が変わったのではないかと思います。私にとっては形状も模様も非線形性を利用したので、なんとなく特別な感じを持っております。こういうことが「隠された意図」になります。

簡単にこの絵の作り方を説明しておきます。Conway自体は以前のブログで述べたように、映像から輪郭を抽出し、この部分がConwayの初期値となり変形を開始します。適当に広がった状態でこれをキャプチャーします。これはMAXで行います。今度はその絵を元に、2×2の対称配置への置き換えを2回施しました。その絵をディフューズマップとし。つづいてノーマルマップを作りました。これらはTouchdesignerで行う処理です(ノーマルマップもTouchdesignerで作れます)。こうしてできたディフィーズマップとノーマルマップを砂漠の古代都市の表面に貼り付けます。これはblenderでの処理です。よく見ると黄色のConwayの部分が少し持ち上がっていることがわかると思います。これがノーマルマップの効果です。

非線形を利用した奇妙な映像から、インスピレーションを得て砂漠の古代都市の絵を作り、さらにそれにインスピレーションを得て、宇宙生命に侵略される古代都市、を作りました。こうした連鎖が人とモノとのフィードバック、コミュニケーションです。私の理想は今回説明した連鎖が生じるような装置を作製することです。これは便利な装置ではなくインスピレーションを誘発する装置なのです。

今回にブログの表紙にした絵は表面に貼るマップを変えたものです。何から作製したマップなのか忘れてしまいましたが、様々なテクスチャーを貼ることで、随分と雰囲気が変わり、それを見てまたインスピレーションも生まれてくるものです。

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