はじめに
先回の「梵我一如1」を書いたおり、少し思いついたことがありました。「梵」と「我」に共通点を、「全体でしか述べることができない存在であること。そして、その全体も包摂した何かがあるわけではないこと。引継ぎ持続して変化し生み出す働きであること」、としました。こうした同じ「働き」を共有しているという観点で一致していることを「梵我一如」と言っているのではないかと解釈ました。この考えは、何かしらの「働き」が背後にあると言う点で、更に広げるなら「原因があるから結果がある」という縁起の思想に繋がります。これは工学と結びつきます。背後に隠されている何かがあり、その何かが「働き」です。これを映像として表現するなら、様々なモノが空間にバラバラと放出され、生み出されるように見え、その背後には「働き」がある、というイメージです。これなら作製する手だてがあります。話を戻しますが、2025.08.17のblogに「存在論と輪廻」を書きました。ここでは、全てがそこから生まれる、存在のゼロポイント、アハド、一者、について述べています。「存在のゼロポイント」からは、なかなか具体的なモノに落とすのが困難です。「梵我一如」の場合は、「働き」があるとすると、それを規則や動かし方として作ることができます。今回の場合は「働き」として「擾乱を伴う反復系」の例と、もう一つ「復元のある場合の砂の動き」を扱います。これらが「梵」に対応します。そして空間にバラバラと飛びだす「我」があります。もう一つ重要な点では、「擾乱を伴う反復系」と「復元のある場合の砂の動き」を考えたのは私であり、それは「我」に対応します。しかしこの考えは、元々自然の中にそうした現象があるからで、これを「梵」と言ってもいいでしょう。そうすると、私の「我」と自然の「梵」とは一致したと言えると思います。オブジェクトについてだけを考えるのではなく、私と自然との間に思考を巡らせることが重要と思います。
「擾乱を伴う反復系」+「放出」
まずは作製した映像を見ていただきましよう。Touchdesignerによる映像です。曲はMAXで作製しました。
様々な形をした線や点が空間に放出されているように見えるでしょう。次から次へと生命を構成するかけらが、「無」から放出されているイメージです。これは上の説明では「我」です。さてこれの「梵」に対応する原理について説明致します。元は「擾乱を伴う反復系」で作製する線状のポイントです。Monogokoroでは何度も扱ってきました。次の図を見てください。

右側が「擾乱を伴う反復系」で作製した線状のポイントの集まりです。これは最初だけ元図が必要で、spring SOPにフィードバックを含む複数のforceを作用させることで動きを作ります。その最初の図が左側です。元図はトーラスと円筒を組み合わせた3つの部分からなっています。線状のポイントに3つの塊があるのは、この元図を反映しているからです。次の画像が放出させる部分の中心部分のプログラムです。

particle SOPを使って放出しますが、線状のポイントはTOPですのでこれをtrace SOPによって3D化します。次々と放出させる映像を作るための仕組みはray SOPとparticle SOPの組み合わせで作ります。第1インレットにtrace SOPを、そして第2インレットに立方体を入力しています。この立方体はグルグル回転しています。ray SOPはなかなか使いでのあるオペレータです。これまでもポテンシャルの凸の表示を作るために使ってきました。原理は同じですが、今回は使い方が違います。ray SOPは第1インレットの入力を第2インレットの表面に投射し、その表面の画像を出力します。投射する方向は第1インレットから入力されたポイントの法線方向です。ray SOPの設定で立方体にぶつかった投射は、今回の場合は設定により7回反射を繰り返します。反射は物理法則に従います。立方体は回転しているので、どのように反射するかは原理的には線形動作ですが、見た目ではもはや複雑すぎて追っていくことはできません。投射を繰り返す度に、表面でできた画像を出力します。これによって複雑な形状が次々と生成されます。2025.09.06のblogに「線形操作で生じる予測不可能性」を書いていますが、このray SOPを使って多重反射させる方法も「線形操作で生じる予測不可能性」に当たると考えます。次にfacet SOPについて述べます。これは無くてもparticle SOPにつなげることはできますが、particleを放出する方向を決めるために使います。facet SOPはpointで構成される面に対して法線方向を定める働きです。particleの方向を整えたことになります。その後paricle SOPによって、ポイントから粒子を放出させています。perticle SOPの続きを次に示します。

point SOPで色を付けてgeo COMP, render TOPと続きます。ごく通常のように見えますが、geo COMPの入力が点線で結ばれていること、テクスチャーやシェーダを担当するMATがありません。今回のpoint SOPとgeo COMPはparticleを使う場合に時々使う、粒子に色を付ける方法です。今回の「梵我一如」の趣旨と違う方向になるため、別途こうした細かい使い方をまとめて報告することに致します。render TOPの後は、輪郭抽出を入れて、これと元の映像とを合成しています。これは良く使う方法です。「擾乱を伴う反復系」による線状のポイントを作製した後は、上の画像にあるプログラムを付けることで、上の動画が作製できます。見た目は放出部分の映像になりますが、背後に「擾乱を伴う反復系」があるという構造になっています。
「復元がある場合の砂」+「放出」
先回の「梵我一如1」では、砂を除いた部分が立体として浮かび上がるようにしました。説明のため先回と同じ画像を次に示します。

左側の立体画像を作製する際に、砂を除いた部分を白として取り出し、trace SOPで3D空間に移したことを述べました。今回、この後に上述した粒子を放出するプログラム部分を付けています。できた映像を次に示します。
「復元がある場合の砂の動き」の例では、砂を除いた部分が立体として浮かび上がる映像と、この動画のようにオブジェクトを放出するような映像が作れました。これらが「我」に対応しており、原理としての「梵」が、「復元がる場合の砂の動き」となります。2種類の全く違った「表れ」があるわけですが、それは衝突した部分をよけるという、同じものから生成されたものです。
まとめ
今回の主張点は、「動画で示した「表れ」があって、その背後に「擾乱を伴う反復系」や「復元のある砂の動き」があり、それらはTouchdesignerというオブジェクト指向プログラムでかかれ、それはPythonとGLSLによって記述されている、といったように還元していくことである」、と主張しているのではありません。この述べ方は、「世界は事物と出来事の集合の総体と定義する」と言う見方で、オブジェクト指向プログラムでたいていのことは記述できるという考えです(2025.05.31のblog「オブジェクト指向プログラム、世界の捉え方」を参考ください)。「梵我一如」の視点で語る場合は、オブジェクトだけでなく、それを作る「私」と「働き・原理」との関係も重要です。空間にどんどんと放射させるイメージを作ろうとした時に、ray SOPとparticle SOPを使って作ろうとし、その背後に「擾乱を伴う反復系」や「復元のある砂」を利用すればできると考えた、それが今回の「私」で「我」です、このように考えたのは、自然の中に見ることができる、「擾乱を伴う反復系」や「復元させる動き」があるからで、これは原理的であり「働き」であり、「梵」と言えるでしょう。このように人や自然を含めて解釈すべきだと思います。


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