固有値の意味:対称2ポート回路の例

回路

はじめに

2026.05.02のblog「微分方程式のコントロール及び「相空間と固有値」の関係」で、線形システムにおいて、固有値が定義でき、それがエネルギーに相当すること。そして、安定か収束か定常状態のいづれかを決めることを述べました。固有値はこのように線形システムの方向性を決めます。これを記載していて、電気回路の分野では固有値を直接回路設計に活用する方法があり、これを紹介する必要があると思いました。ここで扱うのも線形システムです。そして固有値の本質はやはりエネルギーです。しばらく微分方程式をTouchDesignerで解くことを行ってきました。電気回路も勿論微分方程式から出発できますが、

の関係を使うことで、代数的あるいは線形代数で解くことができるようになります。この関係はフーリエ変換です。あまりに当たり前のように使うので、微分方程式を意識することがなくなっておりますが、フーリエ変換を意識することは非常に重要です。今回の場合も2ポート回路からはじめます。そして更に固有値の活用例がよくわかる対称2ポート回路を扱います。対称2ポート回路は左右対称の回路のことです。基礎的ですが、フィルタやアットネータの設計、測定時に必要になるキャリブレーション等、実際の応用は複数あります。これまでの微分方程式の話から少し毛色が変わった印象を持たれるかもしれませんが、本質的には同じです。

対称2ポート回路の固有値及び相空間

2ポート回路のブロック図は

です。V(電圧)とI(電流)の関係を次のように結ぶのが

Z行列です。Zパラメータとも呼びます。他にもFパラメータ、Hパラメータ、Sパラメータ等様々な行列があります。用途によって使い分けるのですが、全てのパラメターは互いに変換できます。
対称2ポート回路では

の関係が成り立ち、

と書けます。
VとIの関係は固有値λとすると、

となります。これはV=λIですから、固有値λがインピーダンスであることが分かるですしょう。消費電力VIはλI^2ですから、Iに1A(単位電流)流れた時の消費電力がインピーダンスですので、固有値λはエネルギーを表していることが分かります。これは結論です。もう少し解析を進めてみましょう。
固有方程式は

ですから、

これから、

が得られます。
つまり、固有値(この場合はインピーダンス)は2つあり、Z行列のαとβで求まります。
ここで固有ベクトルを定義します。固有ベクトルは2ポート回路の励振の仕方を決めます。読み進んでいただくと直ぐに意味が分かります。

のように、システム全体で1Aの電流というように規格化します。
そうすると、

の2つの関係がでてきます。
行列で表すと次になります。

これを図で表したものが、

です。電流と電圧の向きに注意ください、同相励振の場合と逆走励振の場合があります。同相の励振のことを遇励振、逆走励振の場合を奇励振といいます。このように2つの励振の仕方に対応します(今回関係ありませんが、この励振の仕方で電磁界のパターンが変わります。これが偶モード、奇モードです)。

それでは偶励振の場合の場合の固有値をλ1とすると

として求まります。
奇励振の場合の固有値をλ2とすると、

となります。⑤⑥式を➃式と比べると、偶励振、奇励振を使わずに求めた固有値λは、実は偶励振及び奇励振の固有値であったことが分かります。固有値はインピーダンスでもありますから、偶励振のインピーダンスは偶励振時の固有値、奇励振のインピーダンスは奇励振時の固有値となります。
ここから、Zパラメータのαとβは

となり、Zパラメータは

となります。つまりZパラメータは偶励振、奇励振の場合の固有値で書けます。これは固有値が決まることは対称2ポート回路のシステムが決まることを意味しています。

周波数特性を持った交流のV1, V2, I1, I2は時間的に変化します。そうすると、x, yをV1, V2に、V1, I1に、V1, I2に、I1, I2にした、図が描けます。相空間は「系の状態を一意に決めるための変数を並べた空間」ですから、これらも相空間です。相空間を学ぶ時、力学系から入ることが一般的ですがら、位置と速度の相空間をイメージしますが、そうである必要はありません。ストレンジアトラクターの場合はx,y, zはまた全く違う物理量です。
相空間は線形・非線形に関わらず描くことができますが、固有値は線形代数を使って求めているように、線形でないと定義できません。そして固有値はエネルギーを表しています。そうすると非線形の場合、エネルギーが本質ではないのか、と思われるかもしれません。その通りです。これについては、次回のblogで少し考察してみましょう。

補足1:対称2ポート回路例

上の例では回路の中身は問わず、対称2ポートであることだけから議論してきました。これは固有値を使うと、具体的な回路を知らなくても、システムは記述できることです。もう一つの応用は具体的な回路があり、これを固有値で表す場合があります。この例を示します。対称2ポート回路は次のように書けます。

偶励振した時、奇励振した時の回路は次のようになります。

励振の仕方を思い浮かべると、偶励振の場合中心がオープンに、奇励振の場合中心がショートになります。この場合の各インピーダンスは固有値でとのようにかけるか検討して見ます。固有値はインピーダンスであり、偶励振時の固有値λ1が偶励振時のインピーダンス, 奇励振時の固有値λ2が奇励振時のインピータンスであるので、回路図から、

これらから、

と求まります。このように回路の値も固有値を使って求めることができます。

補足2:設計例

フィルタの回路設計は、インピーダンスマッチングの考えを固有値で書くことで行える場合があります。この例が「特開2003-224404 高周波回路用スイッチイング回路」で示されています。これはフィルタ機能とスイッチ機能を合わせた機能デバイスです。表紙の画像はこの文献の中の図です。

まとめ

これまで微分方程式を直接扱ってきましたが、線形回路ではフーリエ変換を使うことで、線形代数として扱うことができます。この例が2ポート回路です。更に簡略化するため対称2ポート回路を扱いました。対称2ポート回路の固有値は2つあり、それは偶励振時の固有値と奇励振時の固有値でした。これらはそれぞれの励振時のインピーダンスです。インピーダンスはエネルギーに対応しているので、ここでも固有値はエネルギーを表しています。VとIの組み合わせをxとyに対応させることで、相空間が書けることを述べました。相空間はかならずしも、力学系で使う位置と速度である必要はありません。固有値や固有ベクトルは、線形代数を使っていることから分るように、線形の場合に定義されます。相空間が線形・非線形に関わらず活用するのに対して、固有値は線形の場合に登場します。これは線形の場合はエネルギーで状態が決まることを示しています。

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