「相空間×SDF」 2:ストレンジアトラクターが作る場

field

はじめに

先回は2階の線形部分方程式の相空間を動くポイントにtorusの形状を当てはめ、SDF(Singed Distance Field)を表示しました。制御した場が作れることを述べました。今回は同じことですが、線形部分方程式の代わりに、トーマスのストレンジアトラクターを使います。このアトラクターは2026.04.24のblog「微分方程式1」で解いています。後程説明しますが、このアトラクターはパラメータbの値によって、2領域に分かれます。そしてbの値によってその2領域間を行き来させることができます。即ち分離と結合をbによってコントロールできます。これはスイッチや情報伝達のモデルに使えそうです。この性質をSDFに活かすと動く領域が変化する場が作れるのではと思いました。通常ストレンジアトラクターの場合は、それを描いて終わりになります。しかし今回はそれを利用して空間のイメージを作製します。

トーマスのストレンジアトラクターの性質

トーマスのアトラクターのパラメトリック方程式は次でした。

この式でパラメータはbです。b=0.208186の時をblog「微分方程式1」で描いています。この時2領域に分かれています。b=0.25とすると、分離はより明確になります。この時の相空間は次です。

そしてb=0.15とすると、2つの領域は結合します。それが次です。

この図を見ていると、2つの領域を行き来しているのではないかと思いました。これを確かめるため、動かすポイント(粒子)を1ポイントだけにし、その動きをトーレースしてみました。それが次の二つです。最初に示すのがb=0.25の場合です。

このように一つの領域に集まります。一方b=0.15にした場合が次です。

2つの領域間を移動するように動いています。
これらは結合しない状態から結合する状態へ遷移することを表しています。この現象は工学的な応用があると思います。

トーマスアトラクターが作るSDF

先回と同様な方法で、このポイント一つから粒子で作るSDFを見てみましょう。動きが明確になるように、トーマスアトラクターポイントはx,yを使いz=0としました。
b=0.25の時が次です。

このように、右側に動きがあることが分かります。
次にb=0.15の時です。

右側にあった変化は中央を通り左側に動き、また右に動くことを繰り返します。
このように、パラメータによって状態が変わる場を作ることができました。

まとめ

blog「場を利用したベクションの表現」、「「場を利用したベクションの表現」の補足」、「相空間×SDF1」、そして今回の「相空間×SDF2」、は基本同じことをしています。SDFを作る粒子の動かし方が違うだけです。これらによって様々なベクションの場を作ることができました。後半の2つは、微分方程式を使うことである程度場のコントロールができることを示しました。特にトーマスのストレンジアトラクターはパラメータによって領域が分かれる/結合するが制御できます。SDFの場もそれを反映します。没入感を感じさせる空間作りに活用できるのではないでしょうか。

補足

bの値によってアトラクター(構造)が大きく変化し、それに伴って出力が変わる現象は工学に繋がっています。今の私がこれを解説する知識はありまんが、少しコメントしたいと思います。b=0.25では安定な系が2つある状態は井戸が2つある系です。これが何かを制御することによってbが変わり、2つの井戸の間を飛び移れる状態になるということです。例えば僅かなノイズでそれをひき起こるなら、確率共鳴に繋がります。Monogokoroではしばしば、オートポイエーシスの話をしています。これは何かと結合することによって、構造が大きく変化し出力が変わる現象と捉えることができます。アトラクターの状態が変わる現象もこれと共通点があります。どちらも臨界点の近くでシステムが極端に敏感になります。また一つのストレンジアトラクターの系を話してきましたが、ストレンジアトラクター同士を結合させることも研究されています。数学的な厳密さをいわなければ、ストレンジアトラクターができる系はカオスです。通常の発振器を複数結合させて位相をコントロールした発振器アレーを作ることは既に活用されています(特開2010-45464 位相同期発振器アレイ及びアレイアンテナ装置)、これと同様にカオス回路を結合させるカオス同期、結合カオス発振器等があります。
私がここ数回にblogで示してきたことは、アトラクターを作るポイントをSDFに変換して見せることでした。そしてSDFの場もまた、パラメータによって特性を変えます。SDFつまり場に変換できたので、この場を次にポテンシャルとしてみなし、この勾配にそって何かを動かす、等の別の応用も考えることができます。これはストレンジアトラクターやカオスを直接応用するのではなく、変換した後応用することで、まだ「未知」が多くあると思います。読んでくださった若い方々が興味を持っていただけることを願っています。
ストレンジアトラクターは綺麗だな、ということで終わることが多いですが、状態変化に着目すると工学的な応用に繋がる分野です。

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