はじめに
トーマスのストレンジアトラクターを描いていて、アプリケーションを思いついたので紹介致します。モノの動きのコントロールにストレンジアトラクターを使う考えです。これには2つのモードがあることが特徴です。1つ目は、既に2026.05.05のblog「「相空間×SDF」2:ストレンジアトラクターが作る場の表紙にあるように、トーマスのアトラクターの微分方程式の係数bの値によって、相空間上で、独立した領域内に留まる場合と、2領域を遷移する場合をコントロールすることです。図を採録しておきます。

これはスイッチのような状態の変化です。これ自体興味深いですが、2つの状態が安定的にある、つまり双安定なスイッチがまさにそうですが、替わりは幾らでもあります。わざわざストレンジアトラクターを使う必要はありません。次に考えたのが「確率共鳴」です。これには相転移する系で、相転移する条件の近傍に信号とノイズを入れることで、非常に敏感に信号に同期して相転移が起こる現象です。ここではストレンジアトラクターの2つの状態を相転移として見ます。「確率共鳴」ができるのではないかと思い検討している中で、bにノイズを加えるのですが、これによって「ノイズ誘起遷移」が生じました。今回は「ノイズ誘起遷移」ついての応用を説明致します。
ノイズ誘起遷移
「ノイズ誘起遷移」現象の簡単なイメージは次のようなモノでしょう。離散化した2つのエネルギー順位があるとします。粒子は下の順位に溜まっています。例えば絶対零度付近の温度の状態です。しかし温度が少し上がると、熱エネルギーが加わりますますので、下の順位に溜まっていた粒子が動くようになります。これが熱によるノイズです。このため上の準に上がる粒子が現れます。上の順位に上がった粒子は、そこでしばらく留まる準安定状態と、下の順位に落ちる場合がありますが、遷移します。このように熱(ノイズ)によって準位間を遷移する現象がノイズ誘起遷移です。
トーマスのアトラクターでいうと、状態が変わる(相転移する)パラメータbの閾値はb=0.197でした。これより大きいとアトラクターは2領域に分かれ、これより小さいと遷移するようになります。ですのでb=0.21と閾値近傍に初期値を設定して置き、これにノイズを加えます。そうするとどのようなことが起こるのか、ということです。まずは結果をみていただきましょう。少し長い映像です。粒子は1点だけでその軌跡を描いています。
映像の左上に在るバーがノイズの大きさです。バーが小さい時はノイズの振幅は-0.01~0.01ですので、b= -0.20~0.22で変化し、領域は分離した状態です。単振動に対応しています。バーが右に伸びる時はノイズの振幅は-0.1~0.1で変化し、b= 0.11~0.31まで変化します。この時遷移できる状態にもなります。ノイズは刻々と異なる値を出しています。映像をみていただくとわかるように、粒子は軌跡を描いているので、この位置も関係しています。ある位置の時に一瞬bが閾値を下回ったとしも、直ぐに遷移するわけではありません。ノイズの値を下回る状態が続く時間、軌道の位置が影響し、何時遷移するかは予測できません。ですので、バーを右側にして、直ぐに遷移する場合もあるし、しばらくまってから遷移する場合もあります。ノイズはsparseノイズです。これは連続的に変化するノイズでrandomとは違います。数値計算のdtは0.1sです。noiseは1/60 sのsamale rateで計算しています。
コントロールへの応用
2つのモードを持つコントロールを考えました。一つはノイズを与えず、bを直接閾値以上と以下にして、領域を分離した状態と遷移する状態を作ります。領域が固定されているか、遷移するかで状態を判定します。
もう一つのモードがbを閾値近傍にしておいてノイズを加える「ノイズ誘起遷移」の場合です。この時、遷移できる状態ではあるが、いつ遷移するかが分からない状態です。これが特徴になります。2025.09.04のblog「ポストモダンと「擾乱を伴う反復系」2」の映像を採録致します
この映像では、マウスに対して人工生命が追っかけるのですが、必ず追っかけるのではなく、「待つ」状態があります。この「待つ」状態があるので、人は「どうしたんだろう」とか、「もうこないのか」とか思い、また向かってくと、「来た」と思うわけです。必ず追いかけてくるなら、そういう装置だと理解します。この「待つ」動作を入れることで生命らしくなります。それに「ノイズ誘起遷移」を使うことができるでしょう。人工生命の例ですと、2領域に分かれている時はマウスと関係なく動き、遷移が行われる時に追っかけ初め、次の遷移が起こるまで追っかけ続ける、といった制御です。この不特定の時間待たせる制御に使えると思いました。これは人とインターラクションする場合に重要になります。「待つ」という制御も、ランダムに設定値を発生させたり、何かの量が溜まる時間を検出したり、様々できますが、何か人為的な印象があります。この点ストレンジアトラクタの「ノイズ誘起遷移」は自然な印象を持ちます。またbを閾値以下にして頻繁に遷移するモードと合わせて使うこともできるでしょう。
まとめ
ストレンジアトラクタは美しく興味を引きますが、それが何に使えるのか、という問題があります。これまで、SDFと使ってベクションとして利用することを提案してきました。今回はもう一つ、「ノイズ誘起遷移」として活用し、「待つ」動作を作ることを提案しました。曖昧さの表現を非線形性で実現するのは、理にかなっていると思います。カオスの概念だけでは応用が思いつきませんが、ストレンジアトラクターを観察することで、今回と合わせて2つの応用が思いつきました。相空間は大切です。

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