はじめに
仕事でモノの状態変化により体験者の志向性を変えることに注力していた時期がありました。インターラクションにこの要素は重要です。最近のblogで「ノイズ誘起遷移」や「確率共鳴」を扱いましたが、これらも急激に状態が変わることを感情の変化に結び付けることができるでしょう。
現象学でよく出てくる例として、リンゴが置いてあり、おいしそうなリンゴだなと思って近づくと、あるいは手にとると、それが食品サンプルであった。というのがあります。この時、おいしそうだ、という志向性が、食品サンプルだと分かると、えーサンプルなの、どうして作ったんだ、とか、軽いなー、とか、何でできているんだ、等と別の志向性が立ち上がります。この例では、変化を作る行為は、人が近づく、触る、といったことですが、装置側に仕掛けを入れて、手を伸ばすと変化する、持つと変わる等、様々な工夫ができます。物質や系の状態が外部条件の変化によって急速に変わる転移(あるいは相転移)は、志向性を問う現象学と相性が良く、工学と哲学、感情とを結びつけるテーマとなります。2025.10.09のblog「「人とモノとの間」認識論2ー存在論」の3つの穴の例はそのことを現わしています。その時の映像を採録しておきます。
この例ではpbr MATを使ったディスプレイスメントによって変化を作っています。これはスイッチ操作で、相転移と違っていますが、効果としては同様に感情の変化を狙ったモノです。
非線形性現象でパラメータに対してクリティカルに変わる状況を作った例が、2025.09.27のblog「コンピュータに宿る非線形性2「映像の相転移」」です。blenderを使って作製しています。細かさとスケールのパラメータを変えることで、急に時化から凪に変わります。この時の映像も再録致します。
長い間この現象をTouchDesignerで作れないかと思っていました。インターラクションとして使う場合は、TouchDesignerのほうが便利だからです。ここ数回、相転移の問題を扱っていたので、その気持ちが強くなったのか、blenderで作製した場合と同様な相転移現象を作ることを再度挑戦しようと思いました。もともと非線形性を使って模様を作ることはTouchDesignerは得意です。Monogokoroでいうと、2025.05.17のblog「「再帰」とは、L-system, ・・・」の中の「フラクタルを作製するもう一つの方法」、2025.08.29の「文学的な関係性・・・」が例です。これらはフィードバックを利用して非線形性を作りますが、そこに何らかの要素を入れて、クリティカルな変化を実現しようとしました。この手法について説明致します。
相転移と現象学の例
フラクタルパターンを活用した例
それでは、最初にTouchDesignerで作製した、相転移の例について見ていただきましょう。2Dの相転移の映像を作った後、pbr MATを使って立体化して変化を強調しています。
凪と言っている状態が大地の上を比較的に緩やかに動いている状態で、時化と呼んでいるのが、バタバタした状態です。凪と時化の変化が相転移です。応用例としては次のような場合を想定しています。凪の時に画面を触ろうと手を伸ばします、触ろうとすることが志向性です。そうすると、時化に変わり、画面が拒否しているように感じます。志向性の変化です。そこで操作者は躊躇し、触る/触らない、の決心をします。このように、一旦躊躇させ、決心させる操作を作ることができます。こうしたモノの動きによって、人の心の動きを作れる点が面白さです。プログラムの主要部分を以下に示します。

noise TOPからフィードバックを使ってフラクタルを作る方法とほぼ同じです。フィードバック内にdisplace TOPが入っている点が一番大きな違いです。level TOPも入れています。level TOPは調整に使う場合にしばしば加えます。composite TOPからfeedback TOPへフィードバックしています。フィードバックの後にedge TOPを入れています。これも今回の特徴です。このdisplace TOPはディスプレイスメントとは違います。ディスプレイスメントはメッシュを加工しないで立体化する技術ですが、displace TOPはx,y 方向に揺らす操作です。名前が似ているので注意が必要です。私の直観はdisplace TOPにより、ノイズのパターンを揺らすことで輪郭が何重にもなり、これをedge TOPで取ると幾重にもなった映像ができるだろう、という考えでした。slider COMPはdisplace TOPのDisplace Weightパラメータを0~0.2の範囲で変えています。displeceの揺らぎを機能させるかどうかをコントロールしています。およそ意図どうり、Displace Weightを0.2にすると激しく揺れ、輪郭が幾重にもなりました。作製した2Dはpbr MATを使って立体化しています。立体化するプログラムは、2026.01.05のblog「痕跡4」で占めしたプログラムとほぼ同じです。少しパラメータを変えたているにすぎません。displace TOPをフィードバック内に入れることがポイントだったわけですが、これはフラクタル模様をフィードバックで作れることを知ってから3年ほどかかって分かったことになります。ちょっとしたことが気づかないものです。
ボロノイパターンを活用した例
YouTubeにボロノイ図形を描く例、「https://www.youtube.com/watch?v=zMunf5NaR9E」がありました。ボロノイ形状の枠で区切った中に、何某かの模様が入る/入らない、の相転移を生じさせれば、blenderで作製した、「コンピュータに宿る非線形性2「映像の相転移」」と似た状況がTouchDesignerによって作れます。それでは作製した映像を見てください。
YouTubeの例に対してフィードバック内にlevel TOPを入れbrightnessのパラメータを1~1.5に変えるだけで、凪状態から時化状態に遷移させることができました。YouTubeの例もフィードバック内にdisplece TOPが入っており、揺らぎをフィードバック内に入れるのは相転移のポイントかもしれません。またslope TOPもフィードバック内に入れており、これがボロノイの線の太さを決める重要なパラメータになっています。その後pbr MATを使って立体化しています。
この例も先の例と同様に、画面に触ろうとすると凪から時化に変わり、触ってもいいのだろうか、と躊躇させ、決断を迫る気持ちを作りだすことができるでしょう。
まとめ
TouchDesignerを使って、凪と時化の状態を相転移する映像を作ることができました。TouchDesignerでしばしば行うTOPを使ったフィードバック系で模様を作る方法を活用しました。displace TOPやlevel TOPをフィードバック内に入れ、そのパラメータをコントロールすることで実現しました。その後pbr MATを使って立体化することで、相転移を映像的に強調しました。相転移は人の志向性を変えることができる優れた機能を実装できます。技術と人の感情とを結ぶ接点になります。

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