ストレンジアトラクターを使った確率共鳴

カオス

はじめに

トーマスのストレンジアトラクターが、パラメータbを変えることで、2領域に分かれる状態と2領域間を遷移する状態があることを述べてきました。先回はbを閾値近傍に設定しておき、そこにノイズを加えることで、何時かわからないが、2領域間を遷移する状態になり、また分離する状態が生じることを見つけました。これを「待つ」という行為に結びつけると、人に生命っぽい印象を与えることができるのではないか、という意見を述べました。今回はこれの延長になる「確率共鳴」について話します。

確率共鳴

「確率共鳴」は非常に小さな信号をノイズを利用して増幅する現象です。生物がこの現象を利用していると言われています。ノイズを利用して増幅するということが、奇異な印象を与えます。通常ノイズは信号を妨害するからです。しかし信号にノイズを加えるとノイズだけの時より信号分だけ振幅が持ち上がる時があるので、その時閾値を超えることで検出できるようになる。というのはありそうなことです。そしてこれはノイズと信号の足し算ですから線形です。
ストレンジアトラクターを使う今回の場合は、非線形ですので共鳴という意味がわかりにくと思います。学生の頃を思い出すと線形の共鳴現象について学んでいます。共鳴現象は力学では位置エネルギーと運動エネルギーが等しく交換する状態、電気ではコンデンサに溜まる電気エネルギーとインダクタに溜まる磁気エネルギーが等しく交換する状態です。この時、数式では共振周波数になると、分母がゼロになり、振幅が最大になる、あるいは直列場合は電流が最大に、並列の場合は電圧が最大になる。こうした現象で解説されてきました。これらはいずれも線形です。
また量子力学の初期では、エネルギーの2準位を用意して、2準位間の遷移である吸収と放出がどういう状態の時に最大になるのかを求めます。結局エネルギーが2準位間のエネルギーと一致する時に、吸収と放出が最大になります。これを摂動理論を使って解くわけですが、これが難しく苦労した記憶があります。確かゼミでこの部分の説明をする時に当たっていたのでした。この計算も周波数のエネルギーが2準位間のエネルギーと一致する時、分母がゼロになって最大になります。これも同様に線形の計算です。

ストレンジアトラクターを使う「確率共鳴」で言っている共鳴は、比喩としては上の線形の場合のの共振周波数に当てはまります。また共鳴した時、感度が高くなるわけですが、これもその通りです。2026.04.24「微分方程式1」及び2026.05.08のblog「ストレンジアトラクターと現代社会」では、線形の場合は上述してきたように、エネルギーで話ができますが、非線形ではエネルギーだけで話ができる系ではなく、相空間で話す必要があることを述べてきました。そうするとこの共鳴と言っている状態は、相空間上ではトポロジーが変わる臨界状態のことを指しています。つまり相転移する状態に相当します。トーマスのストレンジアトラクターでいうと、2領域に分離するか、2領域間を遷移するかのぎりぎりの状態が共鳴状態です。この時パラメータbに対して非常に敏感になっています。bの少しの違いで2領域に分離するか、遷移するかが分かれます。しかし、先回述べたようにこの状態の変化は一瞬で起こることではありません。相空間のどこに位置しているのか、bが閾値以下あるい以上になっている時間も関係しています。

確率共鳴が生じたと言えるためには条件があります。
1.信号だけの入力では相転移は起こらない。
2.ノイズだけの入力でも相転移は起こらない。
3.信号とノイズが在る場合、信号に同期して相転移が起こる。
です。
今回の場合、ノイズを加工する簡単な処理を入れています。調べるてみると「非線形確率共鳴」の分野では、そのようにしており、これはかまわないようです。

ストレンジアトラクターを使った確率共鳴

それでは、計算例を見ていただきましょう。確率共鳴が起こっている場合です。

映像の一番下に白い線があります。白い線が右にくる場合は、信号の振幅が正の時です。白い線が左にくる場合が信号の振幅が負になる場合です。この映像をよく観察していただくと、右に白い線がある場合は、2領域に分かれています。信号が負になる左に白線が来るとき、結合が間欠的に生じています。ですので、信号が負の時の周期に同期した周波数で結合する成分があることが分かります。

映像は10000個の粒子の動きです。トーマスのストレンジアトラクターのパラメータbは0.22です。これにノイズと信号が加わります。臨界状態のbの値(閾値)はb=0.197です。これより低い値の時、結合の可能性があります。信号はsin波で振幅は0.02です。このため信号だけで閾値を下回ることはありません。
ノイズは振幅0.5のsparseノイズです。これを2乗し、window length 4sの trail CHOPにつなぎ、その後analye CHOPで平均しています。つまり4sの移動平均を取っています。その後これを-40倍して反転しています。この操作により値の最小値は-0.02になっています。ですのでノイズだけ閾値を下回ることはできません。この操作を入れたのは、信号をならすためです。ノイズは瞬間瞬間変わりますが、相転移させるのはマイナスの値を維持する時間が必要なためです。この操作は二乗検波に相当しています。

次にノイズを0にして信号だけをbに加えた場合を示します。

断続的に結合しそうな程接近する場合がありますが、結合し遷移していません。また下のバーをみていると、バーが左にある場合にbは小さくなっているので、接近しますが、少しの時間遅れがあります。

次は信号を0にしてノイズだけbに加えた場合です。

ときおり結合しそうなほど接近しますが、結合し遷移していません。
以上によって、「確率共鳴」の条件は満たしており、最初の映像が「確率共鳴」であることが分かりました。

まとめ

トーマスのストレンジアトラクターを使って「確率共鳴」を起こすことができました。これは非線形の「確率共鳴」現象なので、相空間上の相転移が信号に同期して生じる現象として観測されます。

補足:「確率共鳴」は生物が高感度に信号を検出する方法として使われているようです。これは一般的な増幅と違いノイズを利用するわけですが、ノイズを利用すること以上に、生物が臨界状態付近に自身を持ってきているという事実に驚きます。恐らく進化の賜物でしょう。人もある時、複数の関連が合わさって創発に至る時がありますが、こういう状態は自分自身がその時に臨界状態になっていて、何かをきっかけとして相転移を起こしているのかもしれません。

プログラムの中で「確率共鳴」をどう利用すればよいのかは難しい問題です。やはり生命的な現象になると思います。例えば自分自身が弱い探索信号をだしており、そこに何か地面が揺れるとか、風の流れが生じる等のノイズが入った時(これも信号と言えるのかもしれません)、何かの接近した気配を感じる、といったことです。ストレンジアトラクターの臨界状態の敏感性が重要です。今回トーマスのストレンジアトラクターを他のストレンジアトラクターと比較して選択したわけでありません。「確率共鳴」により適したストレンジアトラクターがあるように思います。

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