相空間のまとめ
数回にわたって、微分方程式、非線形、固有値、相空間の概念を扱ってきました。相空間は「系の状態を一意に決めるための変数を並べた空間」です。力学の線形微分方程式になれた方は、x,vの空間と思いがちですが、そうである必要はありません。先回のblog「固有値の意味・・・」では、V1,V2, I1, I2の二つの組み合わせでも相空間が作れることを述べました。相空間は非線形微分方程式でも扱えます。この例としてストレンジアトラクターを描きました。この時のx,y,zはx, vと言ったような特別な物理量として描いているわけではありません。実際にはそれぞれのストレンジアトラクターの非線形微分方程式を作る際には何らかの物理量があったとは思います。しかしx, y, zとしてストレンジアトラクターを書く場合、それは関係性であり一般化されています。線形微分方程式では発散するか、収束するか、定常状態になるかしかありません。相空間でそれらは表現できました。そしてこの発散、収束、定常状態を決める決定的な値が固有値です。固有値は結局はエネルギーに対応する量であることを述べました。線形微分方程式の相空間上の距離はエネルギーに対応します。一方非線形微分方程式の相空間上に現れるストレンジアトラクターは、発散するかと思うと収束に向かい、収束するかと思うと発散するように、奇妙な動きとなります。このためこの相空間の特徴全体を表す固有値は定義できません(狭い範囲で線形近似してそこの固有値を求めることはできます)。相空間は系の状態を一意に決める変数を並べた空間なので、系の状態を決めるのはこの相空間自身になります。それでは、「線形微分方程式で記述できる系は結局はエネルギーという一つの物理量で支配されましたが、非線形微分方程式で記述される系は、何に支配されているのでしょうか?」この疑問に対してエネルギーというような一つの量を指すことはできません。個々の非線形微分方程式を作る変数によって状態が決まります。これは別に非線形微分方程式では、エネルギー保存が破れると言ったことではありません。エネルギーという量だけでは、もはや語れない、エネルギーだけでは説明できない振舞が本質的に現れるといいうことです。AI copilotと行った議論をまとめると、
非線形系では、状態空間の形が
– 谷が複数ある
– 谷と谷の間に鞍点がある
– 谷の形が状態によって変わる
– 谷が突然消えたり生まれたりする(分岐)
– 谷の中に渦ができる(極限周期)
– 谷がねじれて複雑な形になる(ストレンジアトラクタ)
といったように、地形そのものが動的に変化する。
このため、
– ある領域ではエネルギーが減るように見える
– 別の領域では増えるように見える
– その境界では方向が急に変わる
– ある瞬間だけ“押し返される”ように見える
という現象が起きる。
つまり、非線形系では、エネルギー関数が一つでは足りない。そもそも“エネルギー”という単一の量では記述できない力学が働く。
ということです。
x–v や x–v–a の相空間は、そもそもエネルギーで運動が決まる世界の話です。ストレンジアトラクタの相空間は、そのような空間ではありません。だから、エネルギーでは運動が決まらない。とも言えます。
ストレンジアトラクターと現代社会
以下私の意見です。近代の哲学は何々主義と言える時代がありました。例えば、ヘーゲルなら、絶対精神の展開が世界です。マルクスなら、生産様式である下部構造に変革が起きると、上部構造も変化します。実存主義なら人間は意味もなく世界に投げ出され、自分自身を創って行きます。構造主義ならモノの背後には構造が在ると考えます。と言ったようなことです。これらには世界をある切り口で説明できると思っている考えが見て取れます。これらは世界はエネルギーで説明できる線形微分方程式の考えに相当します。相空間では、発散と収束と定常状態しかないので、固有値(切り口)を見つけることで説明できるのです。しかし現代社会で暮らしていると、明らかにストレンジアトラクターの世界で暮らしています。発散すると思うと収束し、収束すると思うと発散し、一つの固有値で説明できません。現代は、情報、経済、社会、心理、技術、文化、等が相互に非線形に影響し合う世界のように感じます。世界そのものがストレンジアトラクタ化しています。だから一つの原理で説明できません、一つの主義でまとまりません、どの変数を軸にアトラクターを描けばよいのかも分かりません、これは真に、非線形の相空間に放り込まれた状態だと言えるでしょう。特に「何を状態変数にすればよいのかも分からない」ということが現代の混乱になっているでしょう。経済指標、心理指標、技術指標、文化指標、社会ネットワーク、情報流通、どれを状態変数として採用するべきか、誰も決められない状況です。数学的な厳密さを置いておくと、ストレンジアトラクターとなる場合はカオスです。ですので現代社会はカオスに入っています。ストレンジアトラクターやカオスが興味をそそるように、現代社会をストレンジアトラクターとみる視点は、興味を引きます。
それでは何をすればよいか
「現代は一つの原理(固有値)で説明できる線形な世界ではなく、非線形でストレンジアトラクターの世界に在り、その状態変数すら決められない」、という意見を述べました。だからどうなの、という事に対して何も無いのでは話が終わりますので、これに対して対策めいたことを述べておきます。
私は相空間をそのまま扱うのではなく、SDF(Signed Distance Feild)に変え、これを粒子化することでベクションの表示に変えて表現してきました。この手法では粒子grid平面でSDFを作るので、二次元になっています。3D的な動きはベクションによって作っています。「「相空間」×SDF]2:ストレンジアトラクターが作る場」では、複雑なトーマスのストレンジアトラクターを、比較的分かりやすい、場の変化に変換しています。この考えを利用すると、2つの方法があると思います。
1.パターンを見る。「相空間×SDF」2では、b=0.25とb=0.15の二つの映像を挙げています。場の動きに特徴が出ました。線形の場合にはなりますが、「相空間×SDF」1では、卍状のパターンができています。これらはパターンに特徴がでることを示しています。動きのパターンを解析することで指標が見つかる可能性はあるでしょう。
2.もう一つはSDFのベクションの場の中での振舞いを見る方法です。場の上にオブジェクトを置き、それがどう動くかを見る方法です。背後のストレンジアトラクターを反映し、かつ動きとして現れます。
いずれにせよ、様々な状態変数でストレンジアトラクターを作り、それを次元を下げる場に適応し、そこでの振舞を扱うことで、状態の特徴が見えやすくなるのではないか、というのが意見です。
まとめ
相空間の考えを、近代と現代の社会に対応させました。近代は線形微分方程式の相空間に対応し、一つの考えで世界を説明しようとしていました。しかし現代では非線形微分方程式のストレンジアトラクターの相空間に相当する時代になりました。一つの考えで世界を説明することはできず、複数の状態変数を使う必要があります。しかし何を状態変数に選べばよいかも分っていません。相空間からSDFのベクションの場のように、次元を下げて動きを分かりやすくする考えを述べました。
表紙の画像は、作製したストレンジアトラクターとSDFのベクション表示を集めた画像です。

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