はじめに
2025.03.14「フィールドの概念:POPをためる2」では、TouchDesignerのfield POPが持つ、場の形状であるTorusを構成するポイントに、場所に応じた高さを持つ直方体をアサインして表示しました。次にTorusに相当する複数のオブジェクトを作り、それらを動かすと、キャラクターが動いているような映像ができるのではないかと思いました。衝突を回避する3体間の位置(2025.11.21「3体間の衝突回避と発振」)である3つのポイントにそれぞれ別の形状を設定して動かしてみました。しかしこの状態では何も面白くありませんでした。そこで次に3つのポイントの距離に応じて、オブジェクトのサイズを変えることを行いました。錯覚が現れるのではないかと思ったからです。サイズの変化が動きの錯覚を作ることを知っていたからです。テレビのUFOの番組で、UFOが瞬間に移動するような映像がありますが、行ってみると、これに似た錯覚が作れました。今回この現象について考察してみます。
サイズが変わることによる錯覚
それではまず、作製した映像を見てください。
3つの異なる形状が左右に動きながら上下に動いているように見えているのではないでしょうか。オブジェクトが小さい形状から急に大きくなる場合は、UFOが瞬間移動したかのように見えます。この映像を斜めから見たのが次です。
このように実際はオブジェクトは同じ平面を動いており、上下方向には動いていません。しかし真上から見た場合(最初の映像)、上下に動いているように錯覚します。
サイズによる錯覚の考察
以下、この錯覚について考察しました。
1.脳はオブジェクトのサイズが急に変わると思っていない:これが錯覚を起こす一番の原因です。通常オブジェクトは急に大きさを変えません。これはパソコンが登場してから簡単に変えれるようになった現象です。そこで脳は小さくなったことを遠くに行ったと判断し、大きくなったのを近くに来たと判断するようです。このため、サイズが変わったということが、縦方向の移動に変換されます。これはサイズは急に変わらないと思い込んでいる人の特性を利用した現象です。
2.背景に海を見立てた映像を配置しています。これによって、視点が上から海を見ていると勝手に思い込まされます。海がないと、水平方向に移動しているとも思えます。海が基準になって、私は上から海を見ているように感じさせられているのです。
3.サイズの変更が速度として感じます。これはオブジェクトの形が変わらないということと、オブジェクトは連続的に運動する、と脳は思い込んでいるからでしょう。最初のサイズの変更が移動に変換されるのと同じだともいえます。移動に変換される変化が速度になります。
似た錯覚と別の錯覚
サイズによる錯覚は、静止画にするとサイズと形の違うオブジェクトが並んでいるだけです。次に静止画を示しておきます。

つまり、サイズによる錯覚は動いているからこそ感じる錯覚だったのです。この点ベクションも同じです。ベクションの表現は「場を利用したベクションの表現」で記載しています。ここでも、映像と静止画を示しておきます。

動画では立体的に見え、移動方向を感じます。しかし静止画では、それは移動しているように見えません。このように、動画だから錯覚が生じます。
動画である必要がある錯覚は、人が前の状態を覚えていて今を見ているという性質と、更新レートの関係があるようです。更新レートはパソコン側のフレームレートがあるのは勿論ですが、人側の性質でもあります。ある速度より速いと連続した流れと感じるようです。
もう一つのタイプの錯覚現象は、静止画で起きます。これMonogokoroでは頻繁に使ってきたpbr MATを使う手法が代表的です。pbr MATは色や光や陰を使って立体的に見せる技術で、オブジェクトのメッシュは変化していません。絵画的な手法と言えるでしょう。代表的な静止画を提示しておきます。

この手法はしばしば、平面画像を立体化して見せる技術として使っています。
錯覚現象作製の方向性
今回サイズ変更による錯覚を作ることができました。錯覚は哲学的には、「人はモノそのモノを見ているのではない」、このことを現わしています。人が持つ特性を示しており興味深い現象です。オブジェクトのサイズは通常変わらない、という思い込みを活かして錯覚が作れました。
さらに拡張するならつぎのようなことに興味があります。もし水しぶきが作製できるなら、小さくなった状態で水しぶきを作る場合は自然ですが、大きい状態で水しぶきを付ける場合、脳は混乱するでしょう。なぜならサイズが大きい場合はオブジェクトは近くにあるはずで、水面から離れているはずだからです。しかし、こういう場合にも脳はその瞬間つじつまを合わそうと解釈を作ります。どのような解釈を脳は創り出すのか興味があります。
また、TouchDesignerでは、Nvidia Flex Solverという物理シミュレーションを行うソルバーが用意されています(2025.06.22「物理シミュレーションの活用 パーティクル」)。このソルバーのパラメータ値によっては、自然現象では起こらない現象を起こすことができます。例えば重力を反転したりすることです。これを使うと「なんだこれは」的な映像を作ることができます。しかしだからと言ってかならずしも錯覚現象にはなりません。錯覚現象になるには、自動的に作用する人の特性との相互作用が必要だからです。これを上手く活用できるなら、不思議な錯覚が作れるだけでなく、人の特性に気付けるでしょう。
ここで述べたことは、パソコンや物理シミュレーションがなかった時代には困難であった錯覚の作り方です。このため、こうした錯覚を通じて人の特性を知ることは、現代的なアプローチと言えるでしょう。その内挑戦したい内容です。

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