はじめに
先回のblog「微小信号の検出」と2026.05.12のblog「ストレンジアトラクターを使った確率共鳴」は、プログラムをセンサの一部として使う特殊な例になっています。また2025.11.15「映像による音生成」では、あらかじめセンサーで周囲環境を測定し、それに対してソフトウエアで衝突を検出する手法を述べました。これらは、従来のセンサーと信号処理の関係を拡張した側面を持っています。どこが拡張していると言えるのかを述べ、Monogokoroの探索の方向の一面を示します。
センサと信号処理の一般的な関係
センサで何某かの信号を検出してそれを信号処理して出力にする。これがセンサと信号処理の基本的な関係です。Monogokoroでも多く扱ってきました。例えば、2026.03.27「凸凹を作る技術(pbr MAT)の補足」では、カメラ映像がセンサで、それをpbr MATを使ってディスプレイスメントして表示するのが信号処理に当たります。風景映像の場合と、クルマの前方映像の場合を紹介しています。2026.07.25「暗黙知の次元2」では、クルマ前方映像から、複雑さパラメータという動きを表すパラメータを検出し、それを基に画像の上に揺らぎを作るとともに、曲も作製しました。2026.06.04「場のイメージと地形」では、objファイルの山の図形に上から粒子を当てていますが、山のフィアルは3Dの形状測定センサと考えても成り立ちます。これらの方法では、センサがあってその信号をディジタル信号処理するというように別れています。勿論センサ自体に信号処理を加えている場合もあります。その場合、それはセンサ情報から特定の情報を引き出すための処理で、センサ側というより信号処理側に属します。
センサ改(センサ+プログラム側信号処理)+信号処理
単純な”センサ+信号処理”と少し違う構成を取る場合が今回の話です。センサ信号を受けて、プログラムで何某かの信号処理するのは同じですが、その処理をセンサ側に含めた方が適当と思える場合です。そしてその信号処理を含めたセンサに対して、従来の信号処理を加え、出力信号を得ます。センサ側に含める信号処理によって、元々のセンサの特徴が大きく変わる場合、これを”センサ改”と表すことにします。以下2つの”センサ改”の例を示します。
例1:微小移動の検出
先回述べた「微小移動の検出」はそれにあたります。そのblogを記載していて中で、今回のblogをまとめようと思いました。この例では元のセンサはニューロンに似せた映像にあたります。再録致します。
結局これを加工するわけですが、この映像では僅かな移動がわかりません。そこでインスタンシングして、filter CHOPを入れた場合と入れない場合を作りました。この映像も再録致します。
左側の映像がfilter CHOPを入れない場合、右側が入れた場合です。この処理も信号処理ですが、これは元のニューロンの映像から引き出したと言うより、立方体をtx, ty, tyでインスタンシングして、filter CHOPに入れることで、frameレートと積算時間の差を利用して移動を拡大し、状態を変更しています。この過程を経てセンサ信号になったとみなします。それ故、”センサ改”なのです。その後データ化する信号処理をしています。センサ改と言えるのは、ニューロン状の映像では得られない特徴である移動が、信号処理を経て明確に得られるからです。別の状態にしてから検出したと言えます。
”センサ改”も信号処理に違いないのに、何故このような考えが必要なのか、これが本質にあたります。それは与えられたセンサを使うという意識ではなく、センサを作っているという意識があるからです。”センサ改”を作るような場合は、大抵元のセンサより尖った(ある特徴を強調し、他の特徴を失う)センサになります。これは「変換」の概念でも解釈できます。「変換」というと、フーリエ変換とか、複素数の一次変換を思い出すと思います。これと似たイメージです。つまり一旦左の映像のように、動きに変換する世界に持って行くことを含めてセンサと呼んだということです。
例2:ストレンジアトラクターを使った確率共鳴
2026.05.12のblogで「ストレンジアトラクターを使った確率共鳴」で、確率共鳴の話をしました。これも”センサー改”の例になります。トーマスのストレンジアトラクターがパラメータbによって、2領域に分かれるか、2領域間を遷移することになるかが決まることを利用した手法です。これを微小信号検出器として応用する場合を考えます。ノイズが加わり、臨界状態ぎりぎりにしておき、そこに周期的な信号を入れることで、その周期に同期して2領域間を移動する粒子が現れます。臨界状態ぎりぎりの時に利得が高くなっており、僅かな信号が検出できます。パラメータbそのものをセンサデータとして使うというよりも、bによる状態変化をセンシングします。「ストレンジアトラクターを使った確率共鳴」で使った映像を再録しておきます。
これを利用する場合、元のセンサは例えば電磁波を検出するような検出器です。この検出器で得られた信号に周期信号を乗算したものが入力信号bです。これにストレンジアトラクターを使った臨界状態にある確率共鳴装置に入力して、同期した遷移状態を得ます。この説明から分るように、確率共鳴装置までがセンサとして考えています。つまり”センサ改”の見方になっています。後段の信号処理は遷移したことを数値化することに相当します。この例も「変換」の考えで解釈できます。bという入力信号が、ストレンジアトラクターの確率共鳴の世界に一旦変換されたと解釈します。この変換を含めてセンサと呼んだわけです。
現実に対応した仮想空間内での信号処理センサ
従来のセンサとも”センサ改”とも違う、センサと信号処理の有り方を述べます。2025.11.19「映像による音生成」がこれに相当する例です。
センサは一般に外部の測定に用いますが、外部を測定するセンサと内部を測定するセンサとの組み合わせによる場合が、今後登場するだろうと思っています。「内部を測定するセンサ」とはどういう意味なのか、これがこの節のポイントです。
カメラやレーダセンサによって外部を測定します。そして外部環境の障害物をディジタル空間に再現します。例えばこれは外部環境のどの位置にモノがあるか・ないかを正確に表す空間です。その空間でモノが在る場所を例えばポテンシャルとして表示します。大きいモノは大きく、小さいモノは小さく再現します。更に心理面を入れることも考えれます。心理面というのは、例えば外部のクルマが高速で近づき、そのサイズが大きい等を考慮することです。小さくて軽いモノの接近はそんなに怖くありませんが、大きくて重いモノの高速接近は、より怖く感じます。そうしたこともポテンシャルのサイズに反映することを指します。作製した仮想空間のポテンシャルに対して、粒子を当てて反射を見る等のように、実空間ではなく、仮想空間内でセンサの機能を使い、その反応を検出して人に知らせるタイプです。この仮想空間内のセンサ機能が「内部を測定するセンサ」です。つまり、センサで位置と大きさのように、特定の何かに注目した世界を仮想空間に作り、その仮想空間内でセンサに相当する信号処理による検出器を作り、その反応を検出する手法です。この例では、外部環境を模倣するためのセンサが必要ですが、外部を測定する実体のセンサは必要ありません。外部を模倣するセンサはインフラ側から提供できる場合もあるでしょう。クルマの場合は安全面で直ぐには難しそうですが、低速で限られた環境では可能性があると思います。「映像による音生成」の例を再録致します。
ポテンシャル分布に対して人工生命と呼んでいる粒子を衝突させ、衝突を表す映像から音を作り知らせています。このポテンシャルが外部を測定して作製するポテンシャルに相当し、衝突させる人工生命が、ディジタル空間内での「内部を測定するセンサ」です。ディジタル空間ができると、実センサを使わずに信号処理で状態を把握することができるでしょう。
まとめ
今後登場するであろうセンサの概念を、これまでのMonogokoroのblogから抜粋してまとめました。センサと信号処理の組み合わせには違いありませんが、設計思想が違います。1.従来のセンサに信号処理を加えて先鋭化したセンサを作り、それに信号処理を行い検出するという考え、2.必要な環境を完全に把握するディジタル空間を作り、その中で仮想センサを機能させることで実空間の状態を把握する考え、を述べました。「変換」や「仮想世界」を含めた拡張されたセンサの概念と言えるでしょう。

コメント