はじめに
トーマスのストレンジアトラクターの場合は、2つのアトラクターが粒子を引き付ける役割を持ち、それによって粒子は地形を動きます。これまで、ストレンジアトラクターの地形を変えることを、「ストレンジアトラクターのコントロール1、修正、2、3」で行ってきました。トーマスのストレンジアトラクターを描く微分方程式のフィードバック内に、maganet SOPを入れることが主要点でした。これらを読み返していると、これまで、metaball SOPのWeightに値を与ることで相転移させ、そこでWeightを0にすると、その状態が保持でき、そして最初の状態にもどすには、極性の違うWeightをぶつけることで行ってきました。一方、2026.05.12のblog「ストレンジアトラクターを使った確率共鳴」では、確率共鳴現象を紹介しています。ここでは、トーマスのストレンジアトラクターのパラメータであるbに、noiseを与え、且つそこに、僅かな信号を加えると(sine波を加えています)、信号が負になりbが0.197を下回る時、ストレンジアトラクターの2領域間に粒子の行き来が生じることを述べました。僅かな信号の値で転移が生じるため、臨界状態では非常に高感度になっています。これを確立共鳴と呼ぶことを述べました。今回はmetaball SOPのWeight = 0の状態、即ち確率共鳴を起こす状態を定常状態として、そこに、Weightの値を変える場合を話します。さてどんな現象が生じるでしょうか。
プログラムにおけるホメオスタシス
ホメオスタシスは日本語では恒常性といいます。同じ状態に保つ・戻ることを意味します。例えば体温を超える気温にいても、体温は基本37°以下に保たれます。このように外部環境にさらされても一定を保つ働きです。プログラムや工学において、特に生物っぽい動きのオブジェクトの場合に、変化があってもほっとけば一定の状態に戻る機能を比喩的にホメオスタシスと呼びます。例えば2025.08.22のblog「ポストモダンと「擾乱を伴う反復系」1」では、人工生命と呼んでいるうねうねと動くオブジェクトを紹介しています。オブジェクトを動かしていると、画面の中心からどんどん離れて行き、画面を出てしまう場合があります。これを防ぐために、粒子が左右上下のどこに数が多いかをモニターしており、中心から離れる程、強い力で中心に戻すようにforceを作用させます。これを使うと、常に画面の中央付近でオブジェクトが動くことになります。このように独りでにホームポジションに戻る働きをホメオスタシスと呼んでいます。
確立共鳴を利用したホメオスタシス
「ストレンジアトラクターのコントロール1、修正、2、3」で、微分方程式は地形に相当することを述べました。metaball SOPでmagnet SOPのポテンシャルを作ることは、微分方程式の地形にポテンシャルの地形を加えることに相当します。このためmetaball SOPのWeightを0にすると、元の微分方程式の地形に戻ります。ですので、粒子があるとその地形に沿って流れます。ここで、これまでの例ではWeightを0にしても、最初の状態に戻ってきません。これは粒子が別の領域に移動していないためです。別の領域に粒子が移動しておれば、その領域の地形に合わせて粒子は動きます。そこで思いついたのが、確率共鳴でした。トーマスのストレンジアトラクターは2領域に別れますが、確率共鳴した状態では、その2領域間の間が繋がり行き来できる状態になります。このため、領域間を粒子は移動します。そうすると、特定の領域に粒子を集めても、確率共鳴の状態になると、もう一方の領域に粒子は移動するはずです。この結果、2領域に粒子のある元の状態に戻るのではないかと考えました。それでは作製した映像を見て下さい。映像は4倍速です。
映像の見方を次に示すます。

中心にトーマスのストレンジアトラクターがあり、下側にバーがあります。これは確率共鳴時を示すための表示です。信号は振幅0.02のsine波です。このサインが正の時はバーが右にあります。この時、確率共鳴の臨界状態から離れており、粒子は2つの領域を行き来できません。バーが左にある時、即ち信号振幅が負の時、確率共鳴状態になります。この時2領域は近づき、相互に行き来が可能となります。またバーが消えている時があります。この場合信号振幅が常に0、即ち信号が無い状態です。一方左上にmetaball SOPとmagnet SOPで作るポテンシャルを表示した映像があります。白い球がmetaballでストレンジアトラクターの中心に在ります。Weight=0の場合はポテンシャルは発生しません。従って地形は微分方程式のままです。Weight=-2にした時のポテンシャルを右側に書いています。このポテンシャルが中心に加わります。そうすると、確率共鳴となった時に2領域間を行き来する粒子は「微分方程式の地形+ポテンシャル」でできた新たな地形によって引き込まれます。このため、この画像のように左側の領域に集まることになります。集まった後、Weightを0にすると、ポテンシャルは無くなるので、確率共鳴の働きにより、2領域間を行き来できるようになり、粒子はもう一方へと移動します。そしてそれは微分方程式の地形に従って動くので、元の状態に戻ります。Weight=2にした場合は、同じ理由で逆方向に粒子は集まります。このように、Weightを0にすることによって、定常状態にもどすことができることがわかりました。即ちホメオスタシスです。これは地形を利用したホメオスタシスでこれまでと違った手法です。
確立共鳴させた状態で、metaball SOPのWeightの値を変えることで、3つの状態を作ることができました。さらにWeightをゼロにして、確率共鳴の信号の振幅を0にすると、2領域間の行き来がなくる状態が作れます。これで4つの状態を作ることができました。
唯識の考えと一致させるには、微分方程式自体をフィードバックさせ変更する必要がありますが、これは相当ハードルが高いです。しかし意味は地形を変化させることですから、今回のやり方で、類似したことはできるはずです(現時点では粒子の動きに対してフィードバックをさせているわけではありません)。
補足1:ストレンジアトラクターは傾いているので、metaballでつくるポテンシャルの向きは重要です。現在はx,y,zに対して1,1,1の方向つまり、それぞれの軸に対して45°傾いた方向に作用させています(metaballの極性で向きは反転します)。これはストレンジアトラクターの頂点方向というわけでもありません。調整しながら決めました。方向が違うと確率共鳴の際に、少しの粒子が少なくなった領域に残ることが生じます。これは勿論、Weightの大きさやサイズにもよります。今回はWeightとサイズを決めた後、方向を調整しました。
補足2:metaballの位置は中心にあるわけですが、振幅0.2のnoise COHPで少し揺らぎを加えています。今のところ印象でしかありませんが、揺らぎを加えた方が状態が収束するまでの時間が少し短くなる気がしています。揺らぎが引き込むポテンシャルの幅を僅かに広げる働きをしているのかもしれません。事実なら、確率共鳴と似てnoiseが重要な働きをする興味深い現象です。
まとめ
ストレンジアトラクターの微分方程式を描くフィードバック系の中に、magnet SOPでポテンシャルを加える機能を入れたシステムを扱いました。確率共鳴状態にしておいて、metaball SOPのWeightを3段階にコントロールすることで、3つの状態を作ることができることが分りました。Weight=0の時が、ホームポジションで、他の状態になっていてもWeight=0にすることによって、ホームポジションに戻ります。即ちホメオスタシス機能です。さらに2領域に粒子があるホームポジション状態の時、信号の振幅を0にする(確率共鳴を停止する)と、領域間の行き来が断たれ、アイソレーション状態になります。これを入れると4つの状態をコントロールすることができるようになりました(即ち4種類の相空間が作れます)。


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